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 横道誠『ひとつにならない 発達障害者がセックスについて語ること』を、買ってきて一気に読んだ。普段は7〜8冊の本を気の向くままに読み進めているから、1日で1冊の本を読み終えるのは久しぶりのことのような気がする。8人の発達障害当事者のインタビューのをもとに、同じく発達障害の診断を受けている横道のモノローグを差し挟むかたちで構成されている。インタビュイーの体験と自身の体験とを頻繁に対比しつつ、その類同性や差異について盛んに問いながら話を進める……という横道の語り口に、若干辟易する部分もあった(無論、発達特性のあらわれとしてそういう部分が出ているのだろうし、後述するようにそうした横道の語り口から発見を得られる体験もあった)。が、もちろん「はじめに」で述べられているように類書のない分野だし、何より個人的な問題系に直結する内容だしで、さくさく読めたのだった。

 5章で紹介されている元セックス依存症者の唯さんが、インタビューの最後に「ソウルメイト」をようやく見つけ、それまで自傷的に繰り返さざるを得なかったデリヘルやパパ活、リストカットをついに止められた、と語る。横道はそれを聞くやいなや、目の前で唯さんが話していることが全く耳に入ってこなくなる。自らにもかつて、なんでも理解しあえるような存在であると互いに信じていた人がいた、ということに没入的に思いを巡らせるのだが、ここで初めて、横道の思考方式が自分にも感染してくる。恋愛関係にせよ性愛関係にせよ友人関係にせよ、またその関係性の深度のいかんに関わらず、他者が自分をわかってくれていると感じることのの何にも替えがたい嬉しさがあり、他方で他者へのけっきょくの到達不可能性の断崖に突き当たることの絶望とが等しく存在するということが、脳裏をよぎる自らの経験を通してまざまざと思い起こされるからだ(そして、想像に難くないと思うが、ASD傾向のある人は前者のような存在への希求が人一倍、いや億倍強い)。この、他者への到達不可能性は、むろん誰しも実感として理解しうる現象であると同時に、その実感は私的なものであるためにどこまでいっても共有不可能なものでもある。そのどうしようもなさにどの程度まで諦めをつけられるかが、さみしさから免れられるかどうかのポイントなのだろうか。

 

 思い返してみると、正月週は異様にさみしかった。普段と比べてさみしさの質が著しかったというわけではないのだが、抑うつが12月から積もりに積もったまま、ちょっとした拍子で気分が沈むとそこからの抜け出しようのなさに落胆するしかない状態が続いていたのだと思う。もちろん、アゲハさんのステージを観られるのだからとうぜん楽しい時間を過ごしてもいたし、ひとたび劇場に入り、ポラで会話を交わせば大体はウキウキ気分になって帰れると経験的に分かっているのだが、当たり前ながら慰めを得ることを第一義に踊りを観に行くのではないのだから、行かないことにした日もあった(浮かない顔のまま行った日は、べつの方に余計な心配をかけてしまった)。

 さみしいと声に出していうことは、なかなかに難しい。親密圏にある他者との会話においてすら、「死のうかな」といくぶん茶化しながら話すことはあれど、さみしいと思ったときにさみしい、とそのまま伝えることは、まずない。それは、中森弘樹が近著『「死にたい」とつぶやく 座間9人殺害事件と親密圏の社会学』でふれているように、親密な他者に対して底抜けの負の感情を示すような仄めかしを行うことが、親密であるからこそ相手の不安を喚起し撹乱してしまうおそれを憚ってしまうからだろう。そして、タイムラインの人とは病み垢として繋がっているわけではないのだし、さみしいなと思ったからさみしい、とツイートすることもまた、難しい。

 

 要するに、自分はさみしさとの折り合いの付けかたをどうにかしないとと感じながらこの日記を書いている。どうにかするといっても、仏教インスパイア系マインドフルネスふうに我執をすべて無に、とかではなく、日常生活レベルで動けなくなってしまうことや、楽しいはずの時間を台無しにしてそれを引きずってしまうという当面の問題に、ひとまず対処できればいい。

 横道が、現在幸せを謳歌しているであろう唯さんの話を聞きながら最後には涙したように、どんなにかけがえなく感じられた他者との関係性も不変ではなく、常に終わりの予感が隣り合わせとして(潜勢的に、あるときはその予感を強めて)ある。幸福な時間ももちろんあるし、嘆きに打ちひしがれながら終わりを迎えることもままある。これまでもそうだったし、これからも必ずやそんなことがあるだろう。日頃から備えたところでそのときがきたら身体が四散してしまうのだろうからどうしようもないが、「さみしい」と直接に伝えられるようになるのも、ひとつの折り合いの付けかたというか、さみしさに「直面」することの、ある種自然な身振りたり得るのかもしれない。

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