道劇で劇場初め。前の年105回通っていたのが73回に減って、今年はもう少し減ったくらいで落ち着くのかもしれない。開演から終演まで座っていた日も、最後の栗橋の二日間だけだった。飽きたというのでもなく、劇場に行けば変わらず楽しい時間がある。思ったほど楽しめなかったという日も、同じようにある。このようになった/なっている、それで然り、というくらいのことでしかない。
さゆみさんが乗らなくなって二回目の正月、にもかかわらず容易に混雑の予測できる香盤。一回抜けて、トリプルの合間で定位置の下手柵前に戻り、アゲハさんの新作が始まったのを見守っていた。10秒経ったか経たないか、右前方でなにやら騒然としはじめる。客席に座っていた人が横に倒れ、盆は回っていたがそれどころではなく、演目止めて、と誰かが繰り返す。ドアを指差して救急車、という人が見えて、一番外に近いのは自分だ、と身体が動き、とりあえず階段を走って上がり真っ先に目に入った森さんに人が倒れました、と告げる(より正確にお客さんが、と言えば良かったのだが、人が、と出てきた)。
森さんと一緒に戻ると、演目は止まって電気は明るくなっていた。お客さんは客席に座り直していて、手にした酒がこぼれたのか、あるいは水様の嘔吐があったのか、下手と中央席の間の床が若干濡れている。しばらくロビーのベンチに座って落ち着いたお客さんが場内に戻ってきて今日は帰ります、ご心配おかけしました、と頭を下げると、気をつけて帰ってね、ゆっくり休んで、とあちこちから声が重なった。
みんなの安堵ののち、演目が仕切り直される。
ときどき、踊り子さんを立派だと感じる、ということを話したりする。この回のステージのアゲハさんはこうしたことがあった後の場をしっかりと引き受けて、ふわふわすることもなく重厚な佇まいで、この人は本当に立派だ、と思った。