2/18 道後ミュージック

四国を中途半端に三県回る旅行以来、14年ぶりの訪問になる松山。高島屋から出て伊予鉄道の市電を待つベンチかなんかに座っていて、そこで麻生自民の衆院選大敗のニュースを聞いたことだけをよく覚えている。空港リムジンで大街道まで乗って、アーケードの途中で甘平という品種のみかんジュースを買い、ジュンク堂の入った三越の前で飲んでいたら、そこから出てきたいとーに発見された。スト客に松山は狭すぎる。

 

そのまま目星をつけていた南米料理店のランチへ。壮年の日本人ご夫婦が二人でやっていて、シカンの金細工仮面のモチーフ、シンプルな猫のドローイングだったり貼り紙のツリーだったりが壁面を飾っていて、目が楽しい内装。ペルーの、豚バラとさつま芋が入ってるハンバーガー、パン・コン・チチャロンというのを食べた。ハードなバンズでしょりしょりした食感もある。ペルーやアルゼンチン料理のお店、よっぽど舌に合うのか、今のとこ外れを引いたときがない気がする。

既に道後ミュージックを二度訪れているいとーの案内で温泉街まで道路沿いに歩いたが、開発地域から道後公園周辺への切り替わりで不自然に木々の緑がわっと目に入ってくるようになり、そのまたすこし先に温泉街のアーケードが現れる。開運ストリップ、の幟を左折してコンビニに行こうとすると、その向こうにはかの有名なヘルスビルが。夜に外出した時には煌々と看板群が光って息づいていた。劇場から梯子するお客さんも当然いるのだろう。

 

この日はなんといっても、チャタさんのメンズストリップ、道後ミュージック初乗りを見届けるという旅の主目的を果たせた。一つ目の演目は、チャタさんの本業のスキルがきっと存分に生かされていて、この状況にこう注意を向けさせてこういうアクションで面白くするんだ、すごいな、という驚きの連続。伊藤亜紗さんの最近出た美術鑑賞入門の本で、画家は絵画技法などを通して鑑賞者の視線を「振り付ける」、という言い回しがなされていた。パフォーマーが自分のパフォーマンスを振り付けるということは、他者の視線をも振り付けるのだ。そしてそれを十二分に楽しめたのは、大道芸のお客さんたちにリードしてもらえたおかげだったという感じ。面白かったらゲラゲラ笑って、喝采浴びせていいんだ、という。道具や服を脱ぎ散らかした本舞台で唐突に、なんでこんな散らかってんだ、みたいに勝手に怒り出す部分とか、普段のストリップではありえないわけだけど、めちゃくちゃ笑ってしまった。

中間の寸劇とそれに続くオープンショーのあと、結城さんもどういうわけかの道後初乗り。とくにM1の奥舞台でボールを扱い始めるまでとM2、完全にストリップを観る時と同じ目線で観ている実感があった。盆に結城さんが足を踏み入れた時には、結城さんに連れられて初めて見にいった道劇の、あの盆を思った。M2、韓国男性アイドルの名R&B。一切脱衣もないのにドエロなベッドに。本人も内容を知らなかったのだから偶然とはいえ、続くチャタさんの演目を、よりストリップマナーに近いモードで観る方向へもっていく繋ぎ目として、十分すぎるほど機能していたように思う。

チャタさんの二演目め、スト客メタ主題。素直に観ていてもすごく練られていることが伝わるのだが、なるほど、と客観的に観ようとするモードを、どうしても情感が追い越していく。ストリップに打たれた人が、ストリップの舞台に立つという行動を取って、憧れる他者が舞台で振る舞うのを模倣するように、ポーズを切る。そうした物語性と、身体との両方に、泣きそうになるのを我慢する。あまりに充実した時間だったが、この公演から問い直されるイシューも、それぞれにこれから色々出てくるのだろう。舞台空間には、ジェンダー化された態度、視線が複雑に絡み合っている。本来、例外なく女性が演者として上がってきたこの舞台に男性が立っているという状況。演者はどう演じるのか。男性の性表現にどのような価値が見出せるのかという問い。観客はどうみるのか。例えば結城さんが指摘していたが、媚態をつくる演者に黄色い声を上げるというのは、それが女性であっても男性的な役割をもった振る舞いだ。やはり、現状ではどうしてもバイナリーな表現から出発せざるを得ないし、ストリップという芸能自体に関する言説が現在そうであるのと同様に、ジェンダー化された規範の枠組みでは捉えきれない表現が広く理解され、受容されることには困難が伴うだろう。とはいえ、チャタさん(と結城さん)の舞台を観て、二人がパフォーマンスに企図していることと方向性を同じくするものではもちろんないし、またポジティブに過ぎるかもしれないけれども、男女二元論的な規範を乗り越える足がかりはストリップ劇場にも、メンズストリップという方法においても築かれ得ると実感できた公演だった。

 

続く夜の本公演。色々ありすぎて、いちいち出来事を列挙していられないほど。キンスキーさん異常構われ&お気に入りカーディガン強奪、奔(ぽん)のハムさんに呼び止められてビッチの集合写真にお邪魔、きららさんとアルコールフリー人間カウンター、美味しかったいよ狸のセミエビ、組体操のお手伝いのあと盆から落下で膝打撲、などなど。そして、なんといっても牧瀬さんの偶数回が凄かった。11結まさごの80’sポップス演目での、掴みどころのないビートへの身の浸し方にも相当食らったが、この日の演目はそうした拍子による分節すら役に立たない。ペンディングされているごくわずか先の予感を、踊りとともに現在として生成して在ることの快楽が、おもむろに、ときに急激に展き、うねり波を打つ身体を伝わって、こちらにも感取される。流体としての生が更新されていくのを気持ちよくなりながら観ているだけ、もの凄く贅沢な時間。

残念ながらホテルのチェックインに間に合いそうになく、最後のきららさんまで観れずに帰る。朝起きて、二日目に劇場に行く予定を入れなかったことに今さらひどく落ち込む。盆から落ちただけでなく気分まで落ちるとは。悪天候もあるので、大街道と銀天街のアーケードを拠点に半日過ごした。なかでも子ぐまの芋蜜という、とても気持ちの良い接客をしてくれた芋スイーツ専門店で居心地よい時間を過ごせて元気に。昼過ぎには雨も上がる。きららさんから聞いたアドバイスをもとにお土産を買い、のんびり帰途につく。と思いきや飛行機が全然飛ばず、あやうく初めてのエクストリーム出勤を果たすところだった。

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