2結 池袋ミカド劇場

2月某日、今月の職場は有楽町線一本で池袋に来れるのがいい。急いで東口を出て、たいした雨ではないけれども傘をさして10結以来のミカドへ。見かけたことのないスタッフさんが、紙タオルで慇懃に傘を拭いてくれる。白雪さんの『周年作』のM1が既に聞こえてきている。ドアを開けてとりあえず左手に避けて入り、ゴミ箱の脇の壁沿いに立つ。先月とはまたがらりと変わった、というよりはその回ごとの直観にディテールを任せているようなベッドを観ながら、1年前の今日を思い出した。ぎりぎり3回目のアゲハさんに間に合い、同じ位置で『himico』を観ていたはずだ。この週のミカドが、本格的にアゲハさんを観に通い始める嚆矢でもあった。

今週3番手のあいらさん、2頭道劇で見てすごすぎてひっくり返った『Secret』。基本4回目に出していたし楽日にはしまっちゃってて、平日に一度しか観られなかったのだが…とりあえず今年観たなかでぶっちぎりの演目。ぼけーっと観る暇が一瞬もないといって良いのでは。M1で提示される猫のイメージは表面的にとどまらず最後まで生かされているし(M5ラストのポーズに足されたギミックはずっこけ感があるにも関わらず、ぐにゃりと手首が曲がるやいなやかっこよすぎてキマりそうになる)、M2のEDMはファットな低音に乗っかってフルスロットルに踊る…というわけでもなく、余剰のエネルギーは宙吊りになったままに。そしてこの曲の特徴的なSEでもある鞭のヒット音のタイミングに、脱ぎの一動作が決定的に(わざとらしさは全くなしに)賭けられる。これもいちいち格好いい。問題のM4、ベッドのアンビエントなR&Bがサビで突如BPMが低減する…というよりはスクリューされる。が、あいらさんの動きは音に影響されて前後で大きく変わるわけではなくて、観ているこちらの知覚に何倍にもディレイがかかったみたいになる。こうした時間の経過に関する知覚を歪められるような場面において、装置として回る盆が加わるか否かというのはかなり大きいとは思うものの、道劇で観たときと同じく身体が捻じ曲がるような異様な感覚。最後は、あいらさん以上に似合う人のないアーティストの楽曲での立ち上がりで十二分に満たされる。また、『Secret』の代わりに楽日4回目に観た『BADGIRL』。エルのあと膝に口づけるのはよく見るが、鼻を二度三度、なすりつけるようにしているのも凄かった。劇場において、嗅ぐという行為が性的な含意をもって思い起こされることって殆ど無いけれども、エアーセックスが可愛く思えてしまうくらいにセックスそのものだなと。

…と、ここまでの部分は何となく思い立って、ほぼ同じ内容をTwitterに流している。

愛奈さんは2頭の渋谷で初めて観たばかりだったが、その直後に引退が発表された。2日目、朝から観ていた結城さんから、足裏の写真ばかり撮るお客さんと愛奈さんとのポラでの話を聞く。愛奈さんが、これからは足裏の写真撮られることもなくなるのかあ、と呟くと、そのお客さんはそんなことないよ、と返したのだそう。そのちぐはぐな返しが面白くて、話を聞いたときは思わず笑ってしまった、のだが。

偶数回に出していた『不純喫茶』のM3、80’sラグジュアリー歌謡の女性歌手によるカバー。サビでは、代わり映えのしない日々の気だるさ、その穏やかさをむしろ受け入れようという内容が、それにもかかわらず切実な愁いを感じさせる発声で歌われる。サビのタイミングでバレエ様のポーズが3つ入った後、M4ではストリップ式のポーズに移行していく。こうした順序でポーズの提示がなされると、不可逆的なときの流れ(デビューする前はおそらくバレエを踊っていた人としての愛奈さんから、ストリップを踊る人としての愛奈さんへ、そして引退が決まっているという状況から、その先の未来の愛奈さんまでも)が示唆される。引退される踊り子さんの心境を推し量ることは、到底できない。ただ、踊り子さんの足の裏を撮るお客さんがいて、踊り子さんとその人とのよくわからないコミュニケーションがあって、それを周りで観ている人がいる、という場がその日、ここにあった。又聞きしただけなのに、楽日最終回の『不純喫茶』を観ていて、そのことがとても尊いことのように思い起こされた。劇場で起こったできごとのすべてを記銘しておくことは不可能なことだし、気を惹くようなイベントや楽しかった思い出ですら、よっぽど印象的なフックがあるか、あるいは友人との話題の中でこすられ続けでもしなければ、少し経ってあれ、なんだったっけ…と想起することすら困難になってしまう。自分にとって愛奈さんのステージは、足裏ポラの人と紐付いて深く記銘されることになってしまった?のだが、その契機があったからこそ、愛奈さんがミカドで踊る最後のステージを、忘れがたいものとして十全に受け取ることができた、ような気がする。

で、アゲハさん、と大傑作『あげこのたまご』を出したあげこさん。うえにょの楽日に観て感激して、翌々日ミカドに来て再見したところ、冒頭からなんか違和感が。M1で服にぶら下げてるかわいいやつ、よく見てみると全部ローターなのでは?(かんちがいしている)→ということは、M3で割れた卵に入ってる同じたまご状のも全部ローター?(おかしな方向へ)→うさぎ=性欲のイメージだし、オナベするし…もしかして色狂い演目?!?!?となり(カス客)、なにもわからなくなる。桃さんや結城さんとローターだったんすねえあれ、いやどうみてもローターですよ、全然気づかなかった~、いやそれはそれで深みが、とか談笑するがその日は混乱したまま。翌々日、ポラ並んで感想言おうとしたらこれローターじゃないです!!!と雷を落とされるなど…見立て違いで良かった。

直近の道後で観て感嘆した牧瀬さんの演目には、一なるもの(海、水)への合一の指向をなんとなしに感じていた。続けて楽日のうえにょで『あげこのたまご』を観て、牧瀬さんのそれとは対照的に現前する具体的な他性をまなざすことの驚異、がより大切にされているふうに目に入ってきた。あげこさんが声を漏らしながら、肌の上に光る球体(婉曲表現)を滑らせる。イースター→卵、というイメージからオナベが発想される面白さ。とはいえ、真っ暗闇での光る球体による愛撫は、あげこさんが最後まで球体から手を離さずイニシアチブを握っているにも関わらず(パンツの間に挟んでいるときですらそうである)、自慰の悦楽というよりかは、差異ある他性の律動との出逢い/ふれあい/交合いを喚起するものに思える(M3の終わりには、割れた卵の殻のなかでこの球体のスイッチを入れて、卵の殻を振動させてそれをあげこさんが見つめる…というくだりがあるし、歌詞では真っ暗でいいことしようよ、とも歌われている)。

そして、よくみえない、ということに強く打たれる。あげこさんの身体や仕草が照明の落とされた場内で暗くてよくみえないのは、現実の性行為のそれ(状況)を思わせるものとしてエロティックである、というよりは、他性のわからなさやどうにもならなさ、他者とのわかりあえなさを、それでもわかりたい人のことはどうしたってわかりたいしできるだけのアレンジメントの手立ては尽くすしかないのだ、という丹念でくまない(愛撫の)手つきが、ある種、球体において勤勉な希望の光として映る…アクロバティックかもしれないけれども、他者とのコミュニケーションの悦びと困難、それでも不断にそれを続けていくことという、めちゃ普遍的な人間の宿痾に思い至る。

他方、ここでの卵に関して連想的に、ドゥルーズ的な意味での、未分化で潜在的な卵(らん)としての世界の探求を見てとることもできる。たまご、というかたちをとってはいるけれども、かたちでとらえることの能わない、他者とのあいだにおける生の流動のなまめかしさ、がM3~M4では表現されているようにも思える。桃さんが今回のあげこさんはアゲハさんっぽい、と言っていたが、確かに『あげこのたまご』は同じタイミングで復刻されたアゲハさんの『(シン)LOVE』の、寓意的というよりはむしろもうシンボルそのものとしてのハートを全面に押し出してラブ炸裂しちゃってるような部分にも観られるような、アゲハさんのオプティミストとしての側面がすごく出ているのでは、という。小倉ではキンちゃんとかぶりで並んで座って、二人で泣こうかな(迷惑遠征客)

今週は、道劇初乗りの翼さんやずいぶん久しぶりにステージを見る(一昨年のまさご以来!)うさぴょんさんなど、渋谷もおかわりでもう一回行くほど楽しめた。それから、1頭は都合の合わなかった友人の工場さんが、ついに劇場に来てくれたのが何より嬉しかった。他に言いようがないので直截に言うが工場さんの書く文章を愛しているので、初めてストリップを観た日に工場さんがこれを観たらどういう所感を抱くんだろうか、と思ったし、たぶんそのことを結城さんに言ったはずだ。

『LOVE』が終わって場内が明るくなって、少し間があってから、伝わんないかもですが、と端的にアゲハさんの所感を言ってくれて、いや伝わります、本当にそうです、とめちゃくちゃニコニコしてしまった。遠くから来てくれているので二回目始まりには帰らなくてはいけなくて、暗転中のドア前でぞんざいなお見送りしかできなかったのだが、渋谷とかでゆっくり観てもらう機会があったらいいなと思う。先立ってアゲハさんの乗る週に来てくれたさゆたろさんやあおさんもそうだが、去年からKぽのみんなと劇場で遊ぶ機会に恵まれていて、本当にありがたい。何度か観てもらってよりストリップを楽しんでくれたらと思っている一方、押し付けがましくなっていないかとも。細くとも、長くみんなとの縁が続くなら嬉しい。いまはKぽにそこまでのめり込めないでいる時期が続いているが、縁をつないでいく場のひとつとして劇場がある。

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